がんとつきあう(がん治療の副作用)がん治療に伴う吐き気(はきけ)・嘔吐(おうと)の対処法

がん治療に伴う吐き気・嘔吐は、患者さんにとって身体的にも精神的にも負担の大きい、つらい症状です※1。がんという病気に向き合い、日々の生活をできるだけ快適に過ごすためにも、少しでも症状を緩和することが大切です。

制吐剤(吐き気や嘔吐をしずめるお薬)による対処法

治療の副作用である吐き気・嘔吐は、予防したり、治療したりできるようになってきています※2。近年のがん治療薬の進歩と同様に、治療に伴う副作用を和らげるお薬の開発も精力的になされています。抗がん剤・分子標的薬などによる薬物治療や、放射線療法の副作用に伴う吐き気・嘔吐などには、症状を和らげ、コントロールする制吐剤が使われています※2

抗がん剤や分子標的薬などによる治療

使用する抗がん剤や分子標的薬などの種類に応じて、吐き気や嘔吐の起こりやすさを予測することで、吐き気や嘔吐による症状が起こる前に薬などを使って予防することが可能になってきました。吐き気・嘔吐を引き起こすリスクの高さによって分類し、そのリスクに基づいて、適切な制吐剤が選択されます※2。吐き気・嘔吐を引き起こす可能性があるお薬には、予防的に制吐剤を使用することも行われています※2。初回治療の時に吐き気・嘔吐を生じないように効果的な制吐剤を使うことで、精神的に生じる吐き気・嘔吐の予防にもつながります※1

放射線療法

照射する部位(場所)ごとに吐き気・嘔吐が生じるリスクの高さが分類されており、そのリスクに応じた対処が行われます※2

また、以前の治療で吐き気・嘔吐の症状が強くみられた患者さんや、妊娠時につわりがひどかったり、乗り物に酔いやすかったり※1などの吐き気・嘔吐が生じやすい体質の患者さんには、医療スタッフが確認して適切に対処できるようにしています※2

吐き気・嘔吐は不安などの精神的な影響も関連することがあるため、適切な制吐剤の使用によって症状を抑えたり、和らげたりできるということを知り、過剰な不安を抱かないようにすることも大切です。

もし、吐き気や不安を感じた時には、程度にかかわらず我慢しないで医療スタッフに相談しましょう。

日常生活での対処法

日常生活でのちょっとした工夫や心がけでも、吐き気・嘔吐の症状を和らげることができます。以下に、食事や環境づくりなど身近な生活においてあなた自身でできる、吐き気・嘔吐の対処法についてご紹介します。

食事

吐き気・嘔吐がある場合には、無理して食べる必要はありません※1。食べられるものを食べられるだけ口にして※3、脱水予防のためにできるだけ水分を摂ることを心がけます※1
水分補給には、経口補水液※4やスポーツ飲料※3、ジュース※4などがオススメです。水分の摂取も難しいような場合には、医療スタッフに相談して、適切な処置を受けましょう。

吐き気・嘔吐がある時の食事の工夫を、以下にご紹介します。

  • 食べやすいもの
    自分が食べやすく、食べられるものを無理のない範囲で食べる※3
  • 胃腸への負担が少ないもの※3
    お粥、柔らかくゆでた麺、野菜では煮ると柔らかくなる大根・ニンジン・カブ・キャベツ・青菜類など
  • 冷たく、口当たりの良い飲み込みやすいもの※3
    アイスクリーム、シャーベット、ゼリー、果物(繊維質が多いものは避ける)、冷たい麺類、卵豆腐、冷奴など
  • カリウムやナトリウムなど電解質を多く含むもの※3
    嘔吐による脱水症状を防ぐためにも、電解質を多く含む食べものを摂る※3
    カリウムを多く含む食品※5 バナナ、納豆、ほうれん草などの野菜、果物、いも類、海藻など
    ナトリウムを多く含む食品※5 梅干しや漬け物など塩気のあるもの、パン・麺類など

においによる刺激は、吐き気・嘔吐を引き起こす要因になりやすいので、においの強くない食べものを選びましょう※6。いろいろなにおいが混ざらないように、食材や調味料を少なくしてシンプルな料理にする、食材のくさみをとるといった工夫をするのも良いでしょう※3

口内の衛生

口のなかを清潔に保ちましょう※6。うがいや歯磨きによって吐き気・嘔吐が生じる場合は、少量の冷水などで数回に分けてうがいをします※6

環境づくり

吐き気や嘔吐を誘う香りの強い化粧品、芳香剤や食品を置かないなど、環境づくりも大切です※6。部屋は清潔に保ち、においがこもらないよう空気の入れ替えを行いましょう※6。嘔吐で汚れた衣類、寝具などは速やかに取り替え、快適な環境づくりに配慮しましょう※7

姿勢

症状に応じてクッションなどで体を支え、できるだけ症状が現れずに楽だと感じる姿勢をとります※6,7。この時、姿勢を横向きにすることで(難しい場合は顔を横に向けます)嘔吐したものが誤って気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)を防ぎます※7

衣類

衣類によって体が締め付けられると、吐き気・嘔吐が生じやすくなることがあります※6。ボタンをはずすなど衣服をゆるめて、特におなかの周りを圧迫しないようにします※7

精神面でのサポート

吐き気・嘔吐は精神的な要因も大きいため、不安を取り除くような言葉をかけたり、不快感のない程度に背中をさすったりするなど、周囲の人のサポートにより症状や不安が軽減することがあります※6

これらの吐き気・嘔吐の症状を緩和するための工夫を参考に、上手くがん治療を継続しながら少しでも快適に過ごしていけるよう医療スタッフと相談しながら、あなたにとって最善の対処法を見つけていきましょう。

※1 小林由佳, 中西弘和. がん化学療法に伴う摂食障害(悪心嘔吐、味覚異常など)の対策. 静脈経腸栄養 2013; 28: 627-634.

※2 「制吐薬適正使用ガイドライン」2015年10月【第2版】一部改訂版 ver.2.2(2018年10月)(編集:日本癌治療学会)
http://www.jsco-cpg.jp/guideline/29.html 2023/2/22参照

※3 ≪がん看護実践ガイド≫がん治療と食事 治療中の食べるよろこびを支える援助. 監修; 日本がん看護学会, 医学書院, 2016年6月, 東京.

※4 長谷川 久巳. 脱水. がん看護 2008; 13: 175-178.

※5 一生役立つ きちんとわかる栄養学. 監修; 飯田薫子, 寺本あい, 西東社, 2019年7月, 東京.

※6 国立がん研究センター がん情報サービス 吐き気・嘔吐 もっと詳しく
https://ganjoho.jp/public/support/condition/nausea/ld01.html 2023/2/22参照

※7 がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017年版(編集:日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会)
https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro2017.pdf 2023/2/22参照

【監修】帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科 渡邊清高 先生

更新年月:2023年10月

ONC46N006C

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