がんとつきあう(がん治療の副作用)リンパ浮腫ふしゅ(むくみ)の対処法リンパ浮腫は、がん治療のためにリンパ節を取り除く手術や放射線療法、一部の薬物療法などによって引き起こされる副作用や後遺症のひとつです。基本的には、治療した側の腕や脚に浮腫を生じます※1。リンパ浮腫は、治療後すぐに生じることもあれば、10年以上経ってから発症することもあります※2。症状が進行すると日常生活に支障をきたすことがありますが、適切なケアを行うことで無理なく日々の生活を送ることが可能です。例えば、「買い物をする際には無理をせずキャリーバッグやショッピングカートを利用する」「重い荷物は無理に持たずに宅配で送る」など、体に負担をかけない工夫が必要です。また、皮膚を清潔に保ち、乾燥を防ぐことも重要です。さらに、リンパ浮腫の部分はバリア機能が低下しているため、虫刺されやすり傷などのちょっとした傷ややけどにより感染を引き起こしやすく、それが原因で腕や脚全体に炎症が広がることもあるので気を付けましょう※3, 4。ほかにも、肥満はリンパ液の流れを悪くするため、標準体重を維持することも大切です※2。リンパ浮腫の予防・進行を抑えるには日常的な心がけが重要ですが、無理をしたり神経質になりすぎたりすることは良くありません。以下のような日常的なケアや医療的なケアを適切に行っていきましょう。日常生活のポイントスキンケア※2, 3肌を清潔に保つ石鹸はよく泡立てて使う保湿で乾燥を防ぐすり傷・切り傷に気を付ける。ペットのひっかき傷にも注意する虫刺されに気を付ける熱いものを持つ時は、炊事用の手袋などを用いてやけどから皮膚を守る衣類など家事などの際にはゴム手袋で保護する※2長袖の上着や日傘などを用い、皮膚を守る※2衣類・靴下・下着・アクセサリー類は、体を締め付けずゆったりとしたものを選ぶ※2ヒールの高い靴は避ける※4体重※2標準体重を維持し、太り過ぎないようにする定期的に体重を測るその他腕や脚を心臓の位置より高くして寝る※2重いものは持たない※4疲れが残るような激しい運動は避け、適度な運動を行う※2長時間同じ姿勢をとらないようにする※5医師による治療リンパ浮腫の症状がみられた場合は、医療スタッフに相談し、症状に応じた適切な治療を受けるようにしましょう。リンパ浮腫には用手的リンパドレナージ(手を用いてリンパ液の流れを改善するマッサージ療法)、圧迫療法、運動療法を組み合わせた治療を行います※3。状況に応じて、手術などの治療を行う場合もあります※6。用手的リンパドレナージ用手的リンパドレナージは、通常のマッサージや美容目的のリンパドレナージとは異なるため専門の医療機関で治療を受けましょう。皮膚を優しくさすることで、腕や脚に溜まったリンパ液を正常にリンパ節へと誘導し、浮腫を取る医療的マッサージを行います※6,7。圧迫療法圧迫療法は、弾性ストッキングや包帯などで皮膚を圧迫することで、浮腫の軽減につなげる方法です。用手的リンパドレナージと圧迫療法を組み合わせることで、体液が再び溜まるのを防ぐことが期待できる場合もあります※8。一般的に圧迫療法では、症状が軽い場合に弾性着衣を用い、症状が重い場合に弾性包帯を用います※6。弾性スリーブ弾性グローブ弾性ストッキング①弾性ストッキング②運動療法リンパ浮腫の運動療法では、弾性着衣、弾性包帯などによって圧迫した状態で運動を行います。リンパ管には、血液を全身に送るための心臓のようなポンプ機能が存在しません。そのため、リンパ管周囲の筋肉に圧をかけること、さらに運動により筋肉を動かすことでリンパ液を流します※8。運動療法を行うことで、リンパ浮腫を悪化させることなくむくみのある腕や脚の運動機能の向上が見込めるとされているため、積極的な導入が勧められています※6。ただし、腕や脚への負担が大きい過度な運動は避けましょう。スキンケアをはじめとする日常的なケアと、用手的リンパドレナージ・圧迫療法・運動療法の組み合わせによる医療的なケアで、予防と症状の改善につなげ、リンパ浮腫と上手に付き合っていきましょう。※1 国立がん研究センター 中央病院 リンパ浮腫についての基礎知識https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/nursing/power/010/030/index.html (2025/9/2参照)※2 国立がん研究センター がん情報サービス リンパ浮腫 ~がんの治療を始める人に、始めた人に~https://ganjoho.jp/public/support/condition/lymphedema/ld01.html (2025/9/2参照)※3 一般社団法人 日本形成外科学会 リンパ浮腫https://jsprs.or.jp/general/disease/sonota/rinpafushu/ (2025/9/2参照)※4 北海道リンパ浮腫診療ネットワーク 「リンパ浮腫簡易指導マニュアル」http://hokkaido-lym.net/pdf/LymphedemaSimpleGuideManual_202203.pdf (2025/9/2参照)※5 菊谷光代. リンパ浮腫を知る-その発生機序と看護師の役割-. 日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 2019; 23: 394-405.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnwocm/23/4/23_394/_pdf/-char/ja (2025/9/2参照)※6 日本リンパ浮腫学会編:リンパ浮腫診療ガイドライン 2024年版 第4版,金原出版,2024※7 一般社団法人 日本リンパ浮腫学会 3)リンパドレナージ(マッサージ効果)https://www.js-lymphedema.org/?page_id=673 (2025/9/2参照)※8 National Health Service Treatment-Lymphoedemahttps://www.nhs.uk/conditions/lymphoedema/treatment/ (2025/9/2参照)【監修】帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科 渡邊清高 先生更新年月:2025年10月ONC46P018A