がん治療の基礎を学ぼうがんってなに?

これから向き合っていくことになる「がん」とはいったい何なのでしょうか?突然がんと告知されると誰しも不安を感じてしまうかもしれませんが、ご自身でさまざまな情報を集めることで、知らないことに対する漠然とした不安を軽減できる場合があります※1。また、治療生活において納得のいく決定をするにあたり、その情報が判断材料となります※1。ここでは、がんという病気についてご紹介します。

がんは身近な病気

日本人のおよそ2人に1人は、一生のうちに何らかのがんにかかると言われており※2、がんはすべての人にとって身近な病気だと考えられます※2

がんができるメカニズム

私たちの体は、約37兆個の細胞から作られています※3。正常な細胞は、体や周囲の状態に合わせて遺伝子が適切に働くことにより、増えたり、増えることをやめたりしています。私たちの体の細胞は、細胞分裂をしたり、やめたりして体の状態を維持しています。細胞分裂では、細胞の設計図であるDNAを、毎日数千億回もコピーしながら分裂していきます。しかし、分裂の過程で遺伝子に「傷」ができることがあります。これを遺伝子の「変異」といいます※2。遺伝子の「変異」が生じると、その細胞は異常な細胞となって無秩序に増え続けるようになることがあります※2

遺伝子のなかには、細胞を増殖させるアクセルの役割をする遺伝子(がん遺伝子)と、細胞増殖を停止させるブレーキの役割をする遺伝子(がん抑制遺伝子)があります。細胞を増殖させるアクセルの役割をする遺伝子に変異が起こると、必要ではない時にも細胞増殖のアクセルが踏まれたまま(がん遺伝子の活性化)になります※2。一方で、細胞増殖を停止させるブレーキとなる遺伝子に変異が起こると、細胞増殖を停止させるブレーキがかからなくなります(がん抑制遺伝子の不活化)※2。このように、アクセルが踏まれたままの状態やブレーキがかからなくなった状態によりいつまでも細胞分裂を繰り返し、周囲にしみ込むように広がったり(浸潤)、血管などをたどってあちこちに広がって新しいかたまりを作ったり(転移)することで、全身に広がり、体にさまざまな悪い影響をもたらすようになります。

私たちの体にはがん免疫監視のシステムが備わっており、がん細胞ができると、そのつど免疫細胞(リンパ球)によって排除されています※4。しかし、その免疫による監視にもエラーが起こって、がん細胞が見逃されることがあります※4。見逃されて生き残ったがん細胞が増殖を続けると、やがて「がんのかたまり」となります※4

がんのかたまりは大きくなるほど増殖が速くなります※5。ひとつのがん細胞が1センチのがんになるまで10年以上かかるとされる一方で、そこから2センチになるのにはとても短い期間で到達します※5

がんの原因

がんは、さまざまな要因によって発症していると考えられています※6。がんの種類によって、喫煙、飲酒、食物・栄養、身体活動、体格、感染、化学物質などの特定の要因が大きく影響することもあります※6,7。一方で、原因がわからないものも多く存在します。

がんが発症すると

がん細胞は、周囲にしみ出るように広がったり(浸潤)、体のあちこちに飛び火して新しいかたまりを作ったり(転移)しながら、無秩序に増殖します※2。がん細胞は正常な細胞の何倍も栄養が必要なため、体に必要な栄養を奪い取ってしまうことから、がんの進行とともに体がやせていきます※8

がん治療と療養生活のポイント

現在のがん治療は、がんの種類や進行度などに合わせて、手術療法、放射線療法、薬物療法(抗がん剤など)などのいくつかの治療法を組み合わせて行う集学的治療が主流になっています※5,9。新しい治療法が次々に確立されているなか、検査を行いながら、一人ひとりに最も効果が期待できる治療の組み合わせを検討していきます※9。このような医学の進歩によって、がんの治療成績は向上してきています※10

がんは身近な病気であり※2、現在は「がんと共に生きる社会」といえるのかもしれません※5。最近は、入院治療の期間が短くなり、外来で通院治療を行うことも多くなってきています※10。そのため、がんにかかっても、治療をしながら仕事を続けたり、以前と同じような生活を送ったりすることも可能です※5

がん治療では、治療から療養生活まで、さまざまな医療スタッフがひとつのチームとなってがん患者さんを支えています※9。治療に取り組む際は、そのチームの一員として、積極的に治療や療養生活について医療スタッフに希望を伝え、一緒に考えながら治療を行っていきましょう。

【出典】

※1 国立がん研究センター がん情報サービス 情報を探すときのポイントとは
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/dia_tre_diagnosis/moshimogan03.html 2024/10/7参照

※2 国立がん研究センター がん情報サービス がんという病気について
https://ganjoho.jp/public/knowledge/basic/index.html 2024/9/25参照

※3 Bianconi E, et al. An estimation of the number of cells in the human body. Ann Hum Biol. 2013; 40: 463-471.

※4 国立がん研究センター がんと免疫の関係 Cancer Immunoediting
https://www.ncc.go.jp/jp/ri/division/cancer_immunology/project/010/20170908151056.html 2024/9/26参照

※5 文部科学省 がん教育推進のための教材
https://www.mext.go.jp/content/20210310-mxt_kenshoku-100000615_1.pdf 2024/9/25参照

※6 国立がん研究センター がん情報サービス がんの発生要因
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/factor.html 2024/11/6参照

※7 国立がん研究センター がん情報サービス それぞれのがんの発生要因
https://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause_prevention/part_distinction.html 2024/11/6参照

※8 東京都保健医療局 がんって何?
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/research/about.html 2024/9/30参照

※9 国立がん研究センター がん情報サービス 集学的治療
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/multidisciplinary_treatment.html 2024/10/9参照

※10 厚生労働省 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン 令和6年3月版
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001179451.pdf 2024/10/7参照

【監修】帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 渡邊清高 先生

更新年月:2024年12月

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