がんとつきあう(がん治療の副作用)皮膚障害の原因
手足症候群、皮疹(ひしん)、色素沈着、皮膚の乾燥、アレルギー、爪の変化など

抗がん剤(化学療法)や分子標的薬による皮膚障害の原因は、おおむね次のように考えられます。

抗がん剤(化学療法)

抗がん剤(化学療法)はがん細胞が分裂する過程に作用してがん細胞の増殖を抑えます。しかし、がん細胞と正常な細胞の区別ができないため、正常な細胞も攻撃してしまいます※1。特に、皮膚や爪などは細胞分裂が活発なため、抗がん剤の影響を受けやすく皮膚障害が起こると考えられます※1

分子標的薬

分子標的薬は、がん細胞の特定の分子(標的)にピンポイントで作用する薬です※1。そのため、抗がん剤(化学療法)に比べて、正常な細胞への影響は少なくなります※1。しかし、正常な細胞にもがん細胞と同じ標的があるため、皮膚障害が引き起こされることがあります※1

抗がん剤(化学療法)や分子標的薬によるこのような作用のため、次に示すさまざまな皮膚障害が現れることがあります。

手足症候群

抗がん剤(化学療法)や分子標的薬は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも作用してしまうため、手足症候群という副作用を生じさせることがあります※2。しかしながら、どのようなしくみで手足症候群が起こるのかはよく分かっていません※2。物をつかんだり、立ったり、歩いたり※2する際に強い圧力が加わる手のひらやかかとなどに、ピリピリとした痛みやしびれといった症状が見られます※2
通常、このような手足症候群の症状は左右両側に現れます※2。また、薬の種類によって現れる部位や症状に違いがあると言われています※2

皮疹(ひしん)

抗がん剤(化学療法)や分子標的薬で見られる副作用のひとつに皮疹があります※1。皮疹とは、さまざまな皮膚病変をひとまとめにした呼び名です※3。お薬の影響で、正常な皮膚機能が維持できなくなり起こると考えられます※1
皮疹のなかでも特徴的なものとして、一部の分子標的薬で見られるざ瘡様皮疹(ざそうようひしん)があります※4。ざ瘡様皮疹はニキビに似ていて、頭皮、首、胸、背中などに現れ、かゆみや痛みを伴うこともあります※1

色素沈着

色素沈着は、抗がん剤(化学療法)や分子標的薬によってメラニン細胞が刺激を受け、メラニン色素の生成が高まるためと考えられます※5。しかし、その詳しいしくみはよく分かっていません※5

皮膚の乾燥

抗がん剤(化学療法)や分子標的薬によって皮膚のバリア機能が低下します※5。このため、皮膚が乾燥してカサカサになり、痛みを伴うひび割れを起こすことがあります※5

アレルギー

抗がん剤(化学療法)や分子標的薬に対してアレルギー反応が起こることがあります※6。アレルギーのうち、短時間で激しい症状が起こるものをアナフィラキシーと呼びます※6。始めの症状として「皮膚の赤み」「じんま疹」「皮膚のかゆみ」「のどのかゆみ」などが現れます※7
アレルギー反応は、お薬が体に入った後30分以内に現れる可能性が最も高いですが、12~24時間後に現れることもあります※6

爪の変化

抗がん剤(化学療法)や分子標的薬によって「爪の色みの変化」「爪の変形」「爪のはがれ」「爪周りの炎症」などが起こることがあります※5。これは、がん治療に用いるお薬が爪の根元部分や爪の下の皮膚に影響を及ぼして、爪の成長に必要な栄養素や酸素が不足したり、神経を刺激して炎症反応を引き起こしたりするためと考えられています※5

抗がん剤(化学療法)や分子標的薬による皮膚障害はさまざまです。患者さんご自身が使用するお薬の副作用については、事前に主治医から十分な説明を受け理解しておくことが大切です。治療に用いる薬剤の種類によって、起こりうる皮膚障害による症状が異なるため、がん治療医に加え、皮膚科の医師の診察や皮膚ケアを担当する看護師の支援を得ながら、予防や日々のスキンケアを行っていくことが大切です。副作用の早期発見・早期治療のため、皮膚や爪などの状態を毎日観察しましょう。気になる症状がある場合は医療スタッフにできるだけ早く伝えてください。

※1 American Society of Clinical Oncology Educational Book. 2020: 40: 485-500.
https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/EDBK_289911 2023/4/21参照

※2 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 平成22年3月(令和元年9月改定)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1q01_r01.pdf 2023/4/19参照

※3 あたらしい皮膚科学 第3版, 清水 宏, 中山書店, 2018年2月, 東京.

※4 国立がん研究センター がん情報サービス 薬物療法 もっと詳しく
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/drug_therapy/dt02.html 2023/4/28参照

※5 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版, 日本がんサポーティブケア学会 編, 金原出版, 2021年10月, 東京.

※6 国立がん研究センターに学ぶ がん薬物療法看護スキルアップ, 編集; 国立がん研究センター看護部, 南江堂, 2018年2月, 東京.

※7 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル アナフィラキシー 平成20年3月(令和元年9月改定)
https://www.pmda.go.jp/files/000231682.pdf 2023/4/28参照

【監修】帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科 渡邊清高 先生

更新年月:2023年11月

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