多発性骨髄腫(MM)を学ぶ治療の副作用

多発性骨髄腫に対する治療の主な副作用について紹介します。副作用の症状があらわれたら、すぐに医師や看護師、薬剤師などの医療スタッフに相談してください。

※薬剤によって副作用の種類は異なります。1種類の薬剤で、下記の副作用がすべてあらわれるわけではありません。

吐き気・嘔吐、食欲低下

吐き気や嘔吐が長く続いたり、それに伴って食欲の低下などが起こることがあります。吐き気については、吐き気止め(制吐剤)などを使用します。また、食欲がないときは、なるべく消化のよいものを選び、少量ずつ、数回に分けて食べるなどの工夫をするとよいでしょう1)

下痢、便秘

抗がん剤の影響で便秘になったり、食欲が低下することで食べる量・飲む量が減って便秘になることがあります。便秘の程度によっては下剤を服用したり、坐薬や浣腸薬が使われることもあります2)。 
また、抗がん剤によって腸の粘膜に炎症が起きたり、感染によって下痢が起こることもあります。下痢の原因や状況にあわせて、腸の運動を抑える薬や、腸への刺激を抑える薬などを服用します3)

脱毛、皮膚・爪の障害

多発性骨髄腫に用いられる抗がん剤の多くは脱毛が起こる可能性があります。通常、脱毛は永久的ではなく、治療が終了すれば再び生えてくることが多いです4)。 
このほか、皮膚の色素沈着や爪の変化が起こることもあります5)

倦怠感

だるさなどいつもの生活を送りづらいと感じる、疲れた状態が続くことがあります。有効な治療法は十分に確立されていないので、ご自分の症状のパターンを把握して、休息をとって楽な姿勢で休む、可能な範囲で運動やマッサージを行うなどの対処が重要になります6)

口内炎

抗がん剤によって口の中の粘膜が傷つけられたり、唾液をだす細胞がダメージを受けたりすることで、口内炎が起こります。痛みを伴ったり、食事が十分にとれないこともあります。こまめにうがいをする、やわらかい歯ブラシで歯磨きをするなど、口の中を清潔に保つことが大切です7)

手足のしびれ

脳や脊髄の中枢神経から全身に伸びている末梢神経が障害され、しびれや痛みなどの感覚障害が起こります。有効な治療法は十分に確立されていないので、症状を和らげるための対症療法を行うほか、治療薬の変更などを検討することもあります8)

骨髄抑制(白血球・赤血球・血小板の減少)

骨髄の機能が低下して血液細胞の生産能力が下がることで、白血球、赤血球、血小板の数が減少して、表1のような症状が現れる場合があります。自分ではわかりにくく重篤化することもあるため、必ず定期的に血液検査を行います9)

表1:骨髄抑制の主な症状[出典10-12より作表]
白血球の減少感染症:白血球(特に好中球)が減少することで、細菌やウイルスなどの病原体に対する抵抗力が下がり、感染しやすくなります。こまめに手を洗う、人混みを避ける、マスクを着用するなど、感染対策が重要です10)
赤血球の減少貧血:立ちくらみや息切れ、めまい、ふらつき、頭痛、胸の痛みなどの貧血症状が起こることがあります。赤血球の輸血を行うことがあります11)
血小板の減少出血:血小板が減少することで、血が止まりにくくなり、青あざ(皮下出血)や鼻血などがみられます。日常生活のなかで出血しないよう心がけてください12)

腫瘍崩壊症候群

治療によって、大量のがん細胞が短期間で壊された場合、がん細胞の内容物(成分)が血液内に大量に放出されることで、腎臓の機能の悪化や不整脈、けいれんなどが引き起こされることがあります。自覚症状がわかりにくく、重症化してから症状が現れることが多いため、緊急処置が必要になります13,14)

サイトカイン放出症候群

治療によって、免疫細胞などが活性化されて大量のサイトカイン(細胞同士の情報を伝達して、免疫応答を誘導する物質)が体内に放出され、さまざまな症状が引き起こされることがあります。発熱、頭痛、悪寒などの一般的な症状から、臓器不全など重症を来すこともあるため、注意が必要です(表215,16)

表2:サイトカイン放出症候群の主な症状[出典15,16より作表]
全身発熱(38℃以上)、悪寒、脱力感・だるさ、疲労、食欲不振、筋肉痛、関節痛、震え など
皮膚発疹 など
消化器系吐き気・嘔吐、下痢 など
神経系めまい・ふらつき、頭痛、混乱 など
循環器系脈が速い、動悸 など
呼吸器系浅い呼吸、息切れ、呼吸困難 など

免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANSアイキャンズ

治療によって、免疫細胞が活性化されて大量のサイトカイン(細胞同士の情報を伝達して、免疫応答を誘導する物質)が体内に放出され、表3のような神経症状が引き起こされることがあります。通常、サイトカイン放出症候群が出現してから2~4日以内に併発しますが、ICANSが単独で出現することもあります16,17)

表3:ICANSの主な症状[出典16,17より作表]
軽度震え、過度の眠気、注意力の低下、文字を書くことが難しい、簡単な動作ができない、言葉が出にくい、会話が拙い など
重度言語障害、無言、指示に従うことができない、けいれん、筋肉のこわばり、歩行障害、片側麻痺・両足の麻痺、幻覚、意識の低下、意識がない など

【出典】

1) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 吐き気・嘔吐 [更新・確認日:2018年10月4日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/nausea/index.html(2024/1/17参照)

2) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 便秘 [更新・確認日:2019年02月14日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/constipation/index.html (2024/1/17参照)

3) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 下痢 [更新・確認日:2019年04月24日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/diarrhea/index.html (2024/1/17参照)

4) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 脱毛 [更新・確認日:2020年03月11日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/alopecia/index.html(2024/1/17参照)

5) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 皮膚と爪のトラブル [更新・確認日:2020年04月28日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/skin_nail/index.html (2024/1/17参照)

6) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 だるさ・倦怠感 [更新・確認日:2019年03月12日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/fatigue/index.html (2024/1/17参照)

7) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 口内炎・口内の乾燥 [更新・確認日:2019年01月21日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/stomatitis/index.html (2023/12/17参照)

8) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 しびれ [更新・確認日:2020年06月29日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/peripheral_neuropathy/index.html (2024/1/17参照)

9) 静岡県立静岡がんセンター:学びの広場シリーズ・からだ編8抗がん剤治療における骨髄抑制と感染症対策(造血幹細胞移植を除く)(第2版):4-13, 2022 https://www.scchr.jp/book/manabi2/manabi-body11.html (2024/1/17参照)

10) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 感染しやすい・白血球減少[更新・確認日:2023年08月10日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/FN/index.html(2024/1/17参照)

11) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 貧血 [更新・確認日:2020年02月20日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/anemia/index.html (2024/1/17参照)

12) 国立がん研究センター:がん情報サービス 症状を知る/生活の工夫 さまざまな症状への対応 出血しやすい・血小板減少[更新・確認日:2020年04月13日]https://ganjoho.jp/public/support/condition/thrombocytopenia/index.html(2024/1/17参照)

13) 国立がん研究センター:がん情報サービス 用語集 腫瘍崩壊症候群[更新・確認日:2020年12月24日]https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/shuyohokaishokogun.html(2024/1/17参照)

14) 岡本るみ子、佐々木常雄:がん化学療法副作用対策ハンドブック 第3版 羊土社:238-241, 2023

15) Jude Children’s Research Hospital. Cytokine Release Syndrome (CRS) After Immunotherapy. [更新・確認日:2019年03月]https://together.stjude.org/en-us/diagnosis-treatment/side-effects/cytokine-release-syndrome-crs.html(2024/1/17参照)

16) Lee DW, et al.: Blood 2014; 124: 188-195

17) Lee DW, et al.: Biol Blood Marrow Transplant. 2019; 25: 625-638

【監修】 独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター 血液内科 臨床研究部長 角南一貴 先生

更新年月:2024年4月

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