がん患者さんのお悩み相談室 ~がんと家族~
介護家族がいる人のがん治療

Q. がん治療と家族の介護を両立するにはどうしたらいいですか?

介護家族のケアは、公的支援を上手に頼って

切実な老老介護とがん治療

超高齢化が急速に進んでいる日本。内閣府が発表した『令和6年版高齢社会白書(※)』によれば、65歳以上の高齢者人口は3,623万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は29.1%となりました。また、「要介護者と同居する主な介護者の年齢についてみると、男性では75.0%、女性では76.5%が60歳以上であり、いわゆる『老老介護』のケースも相当数存在している」と指摘。同資料ではさらに、「65歳以上の者の死因は『悪性新生物(がん)』が最も高い」と言及しています。

この白書からも読み取れるように、老老介護をしている高齢の夫婦のひとりががんと診断されるケースは、少なくありません。がんの治療や手術のために入院を勧めても、「認知症の妻を介護しているので、すぐには入院できない」という患者さんも増えてきています。実際に、「妻をひとりにできないので、入院先に連れていきたい」と申し出る患者さんもいらっしゃるといいます。周囲に迷惑をかけたくないと願いつつも、がんの診断など突然の出来事に対応策が見つからず、混乱されて申し出されたのかもしれません。万が一、身近な方が同じような状況になった場合には、公的サービスなどを上手に利用しながら対応することをお勧めします。

【出典】内閣府ホームページ(2024/7/31参照)

がん患者であるご自身も介護申請を

「家でひとりにするのは心配」という介護者がいらっしゃる場合、まずはご自身の地域にある「地域包括センター」に相談してみましょう。今現在、介護しているご家族やご自身が介護申請をしていなくても(介護保険やサービスを使っていなくても)、相談はできます。特に、介護者が認知症の場合は、これまでの生活をできるだけ変えないようにしたいもの。配食サービスやヘルパーの手配など、公的サービスを活用して、今まで通りご自宅で過ごせる例もあります。それでもひとりにすることが心配な場合は、特別養護施設などのショートステイを活用することも可能です。

介護者が介護保険を利用している場合は、担当のケアマネージャーに連絡を取ります。ご自身がなんらかの検査で要精密検査になるなど「がんの疑い」という説明を受けた段階で、速やかにケアマネージャーに家族の状況を伝えておきましょう。その後の段取りや準備がスムーズになります。

さらに、ご自身ががん治療で入院する場合にも、介護申請をすることをお勧めします。介護保険サービスの利用は、原則として特定疾病該当の方は40歳から、それ以外の方は65歳の誕生日の前日から申請できます。その後の治療、療養生活を考慮し、夫婦で介護保険サービスを利用できる体制を整えておくとよいでしょう。

「自分の身に何か起きたら」に備える

老老介護にかかわらず、現在では「引きこもり家族」の問題もクローズアップされてきています。ご家族に介護を必要とする方や養育している方がいる場合、自分の身に何か起きた時に介護や面倒を見ている家族をどうするか?これはがんに罹患する、しないにかかわらず、常日頃から考えておきたいことです。

自分以外に介護を任せられるサポーターを確保しておくことは、介護を担う人、受ける人、双方が幸せに生活するためにも必要なことです。自分自身で判断がつく間に、財産の取り扱いや成年後見制度などの手続きを行っておくことも、場合によっては必要でしょう。

まとめ:公的支援でがん治療と介護を両立

いずれにしても、現在の日本の社会保障制度でクリアできる課題は、少なくありません。がんの治療を始める前でも後でも、療養生活の間でも、ご自身やご家族の介護に活用できる施設や制度があるはずです。地域包括センター、ケアマネージャー、がん診療連携拠点病院内の相談支援センターなどに、遠慮なく相談してみましょう。さまざまな専門家が連携して、がん患者さんとご家族を地域全体で支える仕組みがあります。こうした仕組みを知ることは、安心して治療に専念できる環境づくりの第一歩です。

【監修】国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院 サポーティブケアセンター/がん相談支援センター
副センター長 坂本はと恵氏

更新年月:2024年11月

ONC46O008A

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